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ep03)コマンドの番犬_2

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「ジーンがコマンドしたカードは、今は発売禁止。おっちゃんが所持を許可した弟子で、許可したカードしか、もう所持できねえ、それは市場に出回ったら駄目だ。掟を破ったら破門される。それくらいの効果があるんだ」

「私、もしかして、そんなすごいジーンさんの弟子になったってこと?」

「ジーンのおっちゃんが直接、お前に渡したんだから、そうなる。そのカードを持ってるだけで、いろんな利点がある。悪用したいヤツもいっぱいいるのを知ってる。だから俺はそいつを売りたくねえ、」


カイの話が両耳を通り抜けると、涼は大変な物をもらってしまった自分の現状を把握した。
つまり彼がこんなに一生懸命なのは、自分を助けたいという善意だけではなく。
いやむしろその善意は第二儀的なもので、
弟子として、師匠の威信を守りたくて動いている割合の方が、きっと高い。

ジーンはこれも見越してカードを自分に託してもいるんだろうと考えると、
あの優しげな灰色の瞳の下に、億尾にも出さない強かさがあるのだと感じて戦慄した。

しかし、涼の住まいが、保障されなければ、
これが、どんなにすごいお守り効果を持っていても、
自分の生活面の工面のために、人手に渡ることは避けられない。


「でも、」
「万が一っつっただろ。一万件回ってもお前の住むところが見つからなかったらの話だぞ。」


一万件、というカイの台詞に顔が引きつる。あとどれだけあるというのだ、その候補は。

カイは更に涼に対しても、警告するように釘を刺した。


「それにお前がもし、私利私欲でそれを売ったり使ったりしても、俺は絶対お前を許さない。忘れんなよ」


歩き回って温まったのか、ダウンを脱いで、
黒い学ランのまま、街をずんずん歩き出した彼のコンパスに追いつこうと、涼は小走りでついていく。
(ジーンさん、カードに守ってもらう前に、カードのせいで貴方のところの番犬さんに噛みつかれそうです。)


また何件か回って、涼がついて来ても交渉の妨げになりそうで、
カイが店の中へと入っていくのを見送ったあと、
なにやら道行く人たちの視線が妙で、少しその視線が外されている先を詮索する。

すると皆、ある箇所を見るのを、避けるようにして歩いていく。


「あ、」


物乞いをする小さな子供の姿がそこにあった。

世界が変わってもこういうことは変わらないのか、と、
なんだか沈んだ気持ちになりながら、
でも自分だって大して変わらない状況で、差し伸べられる手があるわけじゃない。

目を背けていく、大多数と同じになりたくないと思いながら、
やはり、その大多数になってしまう自分を情けなく感じていると

その男の子に話しかける青年がいた。

手にこれでもかというほどたくさんの書物類を抱えているその人は、
陽気に男の子に話しかけ、その男の子の顔色が明るくなる。
彼ならば、最近の若い者は、などと高齢者に言わせないのだろう。

世の中捨てたもんじゃないな、などと浸っていると、
今度は、その青年が四、五人の男性、というより明らかなチンピラに囲まれて、
なんだか涼は応援したい気持ちがいっぱいになって、目が離せなくなった。


ここからじゃ話の内容がわからない、と、涼がそちらに歩を進めていったのは無意識のことだ。


「僕が君達に話すことなんて何もない。」
「でも俺達にはあるんだなあ」

「そうそ、あんたが大通り沿いのでかい教会から出て行ったを、数時間前に見たからな」
「だったら、何?」

「お前が今運んでるそれ、司教様のコードだろ」

「…僕のかもしれないよ」

「まあどっちにしろ、これだけのコード量があれば、当分遊べるしな」


男の一人が青年が抱える書物に手を伸ばそうとして、青年は声をワントーン下げて咆えた。

「!、っ汚い手でこれに触るなっ」


書物を守るように飛び退いて、大声で威嚇する彼にとって、
その書物がとても大事ななものなのだと、涼でも簡単に見て取れる。
男達はどうやらその書物目当てのようで、
綺麗な銀髪の青年の剣幕を見ると、ますます嬉しそうに歓声を上げた。

「おいっ大当たりだ!」

「当分どころか一生遊んで暮らせる!」


「「「アーダーベルトのコマンドだっ」」」


コマンド、と言った男達の言葉を聞いて、咄嗟に涼は、自分のカードを見る、
コードと呼ばれる物については、まだ知らなくて、よくわからないが、
確か、カイがカードを作ることがコマンド、作る人をコマンダーと言っていたのを思い出す。

それにあの青年の両手いっぱいの書物は、ジーンの書庫屋やカイのノートと、同じ感じがした。
ひとしきり騒いだ男達は自分達が元から所持していたと思われるカードを、それぞれに手に持ち始める、

(あれ、でもあの人たちも、自分のカードを持ってる)

そう思った瞬間、それが刃物や斧といったものに変わった。ように涼には映った。

一体何が起こったのか、どんなエンターテイナーか、と、にわかに信じられなくて目を瞬かせる。
でもいくら目を凝らしても、それらはもうただのカードではなく、
人を簡単に傷つけられそうなほどに鋭い、武器なのだ。

ハサミやカッターを向けられるのとはワケがちがう。
現実離れしながら、しかし血の気が引くような光景に
青年の後ろにいる、あの物乞い少年と同じく、足が震えた。
青年は両手が塞がっているのに、その目はまったく恐怖に染まってはいなかった。

震える己の足を見ながら、カイの言葉を思い出す。

『そのカードを持ってるだけで、いろんな利点がある。悪用したいヤツもいっぱいいるのを知ってる。だから俺はそいつを売りたくねえ、』
同じ目だ。
あの青年がどこのどんな人物かすらわからないが、
彼もまた、誰かの何かを守っている。そんな目をする人が傷つくのは見たくない。

踏み出す彼女の足を止めたのは、いつの間に来たのか、後ろから肩を叩いたカイだった。


「俺がいくから見てろ。今からするのが、この世界じゃ合法の喧嘩、ゼロバトルっていうんだ。」

「ゼロバトル?」


涼の肩に置いていた手を外し、彼が前へと歩を進めると、銀髪の青年が一目散に反応を返した。
「あっ、カイ!」
名前を呼ばれて、答えるように、カイは片手を上げてそれに答えた。

「よお!そんな量、一変に運ぼうとするからピンチになるんだっ」

そう、両手さえ塞がっていなければ、青年だって自身のカードを揮えるのだ。
まあ大方、一気に運んで手間を省こうとしたのだろうが、
それは術者故の奢りでもある、とカイは思った。

「そんなこと言ってないで助けてよ!」
「ひとつ、なんでも言うこと聞いてくれたらいいぜ」

ふたりの会話から、どうやら銀髪の彼も、カイの知り合いだったのか、と涼は見知った風に話す様子を眺めた。

男達は両手が塞がっていて無力な青年の助け舟であると思われる、
突如現れた、カイの方に構えを変え、青年はほっとするも、その助け舟の想定外の発言に、またしどろもどろになり慌てだす。

「ちょっと、助けに来てくれたんじゃないの!」
「ああ、条件付で」

「うっそんな…なんでもなんて…」


コイツが、なんでもなんて条件をつけてくるってことは、絶対ろくなことじゃない。
と直感で怪しんだ青年は口を噤む。
しかし、それは予想の範疇であるようにカイは普通にそのまま話す。

「アーダーに大目玉食らって閉め出されるのと…選べ」

にこ、とさわやかに笑んだカイの笑顔はこんな状況でなければ、万人受けするだろう、

それはあくまでも、こんな状況じゃなければ、だが。


悪魔だあああっと、書物を抱えながら絶望したように青褪めた青年は、泣きそうでもある。
焦燥に駆られるように世話しなく目線を動かして、
なかなか決めかねている青年に、カイがトドメとばかりに男達に捲くし立てた。


「あ、痺れ切らしたら、いつでもあいつの持ってるコード持ってっていいっすよ」

その言葉にハッとして、ひとりの動作を合図に、四人の男達が青年の持っている書物めがけて突っ込んでいく。
それでも渡すまいとぎゅうっと力を入れて抱きかかえながら彼は叫んだ。

「やだあああっアーダーさん捨てないでえっ!」


金属と金属とがぶつかり合うような、高い音がひとつ大きく響き渡る。
その音に、道行く人が立ち止まり、野次馬となって寄ってくる。

涼の後ろはすぐに観客席の最前列になった。


キチキチと相手を押しやる力に刃物が悲鳴を上げる。
青年と男達の間に立った空と同じ色の瞳の青年は涼しい顔をして四人分の圧力を受け止めていた。


それは涼が見たことも想像したこともない戦い方。


ありえないことに、カイの身体を守るように数本の両刃剣が彼の周りに浮いて、
意思でもあるかのように、彼の盾となっている。


「ひとつだけだから」

銀髪の青年が半ベソで彼の背に向かって言うと


「おう、なんでもな」


と、彼にとって、より重要な方を提示して、
そして笑った。

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