創造劇。
ひたすら創作倉庫
ep04)He is Knight.
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「ソルジャー、バスター、フェンサー…お、メタルアックスじゃん。あれかなりのレアだぜ、いいなあ」
「あの坊主の…何だ?見たことねえ、コマンダーか」
「ストックを展開しながらのスタイルなんて中々拝めないぜ!」
「おいおい、まさか銀騎士じゃねえだろうな」
「アハハッ、じゃあ、あいつら積んだなっ。でもあの学生服は明らかに銀騎士じゃねえだろ」
背後の人だかりから漏れてくる話し声は、まるで新作ゲームか何かの中の単語のように遠い内容で、完全にこの熱気に置いて行かれてしまう。
こんなことが現実にあっていいのかと、涼は軽い眩暈に見舞われた。
カイが対峙している男達が、各々の手に持つ武器の形状も様々だが、
それよりも彼自身が持つ武器と思われる物のほうが理解に苦しむ。
涼が自分で剣と認識したからには、それっぽい形をしているが、鉄製でも、銅製でもないそれは、敢えて言うなら光の集合体のようなもので、失礼だが光る鉄製としか、涼には表現できない。彼が手にしている一本と取り囲むように浮いている四本のそれは、もしかしてライトセーバーみたいなのか。
己が知りうる限りで、あんな物が許されるのは映画や物語の中だけだ。
ここはスターウォーズの世界だろうか。ジェダイとかいるのか。
徐々に空想のお話と重ねて見てしまうのも、
この状況なら仕方ないじゃないか、と、彼女なりに、頭の中で、なんとかこの事象を理解しようと頑張る。
カイは動くことなく、相手の顔を覚えるかのように、目配せする。
さすがに、その男たちの中には、知り合いは居ないようだった。
「半端なプレイヤーじゃ、俺には勝てねえぞ」
「こっちは四人なんだ。わかんねえぜ」
ギチッと鈍い音が走り、睨み合ったまま刃物同士をどちらかともなく一気に叩く。
突き飛ばしあったコマンダー一人とプレイヤー四人の間には距離ができた。
間合いを取ると、カイは右手を前に出して親指から、何かとカウントするように、順番に指を折りたたんでいく。
ひとつ折り曲げる度に、彼の周りに浮遊する光はプレイヤーの男達四人の前方や後方にランダムに瞬間移動していく。
先手を取って仕掛けてくるそれに、気づいた者から順に、
この学生コマンダーの好きにさせるものか、とカイの方へ斬りかかってきた。
しかし、男が刃を振り下ろすより速く、カイは、手にしていた一本を右下から一気に振り上げて男の身体を薙ぎ払う。
もう、彼が見ているのは倒した敵ではなく、次に倒すべき敵に向けられ、一度使った剣も、もうすでに彼の手にはない。
更に後方へ一歩、もう一人後ろの男の間合いに入る。
その速さは、剣を持っていない身軽さからも来ていて、標的にされていると気づいた後方の男は武器を構える。
男は思う、今なら、少年は丸腰だ。
だが、構えた先、左前方にすでに配置されていた剣を、
まるで、ずっと持っていたようにロスタイムなく引き抜き、その引き抜いた形ですでに構えまで済まして、突進してくるのを目の当たりにして、
最初からこの少年は、こうするつもりで動いていたのか、と、それからすぐ、男の死角を取った彼の青い瞳と目が合うと背筋がゾっとした。
その色はひどく冷静で、次を考えているかのように、もう己を映してはいなかったからだ。
涼は次々と倒れていく男達を見ながら、カイは弱者強者で言えば、明らかに強者なのだと確認した。
しかし、後ろのギャラリーのように固唾を呑んで見守りはしなかった。
人間離れした、すごい動きをする彼よりも、彼に太刀を浴びせられた男の方が数段気にかかった。
くたりと力が抜けたように倒れた身体はピクリとも動かず、ゆっくりと赤い液体が広がったところまで見て、涼は目を反らした。
血だと認識するのに時間はかからず、わかってしまえば、背中の後ろのほうから、じわじわと襲ってくる恐怖は、刃物を見たときの段ではない。
自身の胸元を服に皺がよるほど強く掴むと、耳の中でドクドクと心臓が嫌な音を立てているのがわかる。
ふと、背後を見れば、観客と化した人たちはこの戦いの行く末を、まるでサッカー観賞でもしているように興味ありげに見守っている。
涼にとってそれは、ひどく野蛮に見えた。
どうして、周りのギャラリーの誰一人、自分と同じように目を背ける者がいない。あの男から流れているのは間違いなく血液じゃないか。
これが合法だっていうのか、
だとしたら異常だ。この世界は。
気持ち悪い、なんだか腹の下がムカムカして、とてもじゃないが彼が言うゼロバトルをこれ以上見る気分にはなれなくて、涼はその場に蹲って両手で耳を塞いだ。
早くこの喧騒が無くなればいい。本気でそう願った。
そんなに時間を空けずして、肩を叩かれて顔を上げる。
アホ硬派で俺様だけど、普通の学生だと、つい先ほどまで信用しかけていた、
今ではとても遠くて大嫌いな部類に入る男の顔があって、涼は、顔を顰める。
「おい、お前調子悪いのか?」
「…触んないで」
「あ?…なんだぁ、突然」
彼にしてみれば、普段どおりにしているだけだろうから、いきなり口調も態度も変わった涼を不可解に思う。
その心境は己にもわかったが、何か腑に落ちないのだ。
特に、呆気にとられる彼の、後ろの屍累々とか見てしまうと、余計に。
いつの間にか、彼がこのバトルには勝っていたらしい。
野次馬だった人たちは、相手が弱かった、とか。やっぱり涼にはまだ理解できない単語オンパレードの会話をして、偶にカイに話しかけたり、中には名刺さえ渡してくる人もいる。
例えるなら高校野球の四番でエースピッチャーの将来有望株に、スカウトにきている球団の人、といった感じ。
まあ勿論そんな平和的な話じゃないことは確かで、余計に居心地が悪くなる。
助けられた銀髪青年がすぐにこちらに走ってきて、
「僕は先に教会にこれ運ぶよ。カイはどうせ銀騎士が来るまで動けないだろ?」
彼の申し出にカイは首を縦に動かす。
「そうしてくれ。セーブが済んだら教会に行く」
「…来なくてもいいよ」
「絶対行く。」
簡単なやり取りをしてから、青年は荷物を抱えたまま足早に駆けて行き、
物乞いをしていた少年が、後をついていったのが眼に入って、自分を追いかけようとすると、しっかりと肩を掴まれる。
「お前は、こっち」
強い口調で言われた言葉に、目線を合わさないようにずらしながら、言い訳を考えた。
自分の精神状態が、あまりよろしくない今は、彼とあまり行動しないほうがいいと、感覚が訴える。
「私も…先に」
「もうちょっとで銀騎士がセーブをしに来る。黙って見とけ、今後の為だ」
今後のため、と言われて、涼は押し黙った。
そうだ、自分は何も知らない。自分自身が、あの転がっている連中と同じ鉄を踏むことだってあるのだ。
しかし、このもやもやとした霧罹る気持ちはどうしようもなく、肩に置かれた手を払いのける。
明らかな、彼女の自分に対する嫌悪感を感じ取ったカイの眉間に皺が寄る。
「…お前なんださっきから」
「こっちだって色々考えることがあるの」
「んだと…!」
「また、これ君なの?」
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