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ep02)a cup of tea.

******



初対面の相手、しかも女の子に面と向かって、
お前誰だと言い放った学ラン君にデリカシーのなさを感じながら、涼は自分の王子様発言を心の中であっさり却下しておいた。

「私は柳涼、あなたは?」

「カイ、カイ・シュバルツだ。えっと柳が名前なのか?」
「ちがう、名前は涼の方」

「そっか。よろしくなっ、涼」


名乗りなおせば、彼は片手をこちらに差し出してきた。

握手を求める程度のマナーはあるらしいカイの手を、無碍にする理由もなく、握り返して挨拶を交わす。
むしろこの世界でも握手というマナーがあるのか、というのがまず涼が思った感想だった。

その様子をにこやかに見ていた老人は、ゆっくりと背のない椅子から腰を上げた。
動作や風格から彼からは確かに老いを感じるというのに、
まるで生活の中にそれを感じさせる物がないことに、少しの違和感を感じながらそれとなく視線を彼に向けていると


「さあふたりとも、中へ来なさい。」

と、カウンター後ろにあるカーペットのような柄の間仕切り布を上に持ち上げる。その奥は、別の部屋へと繋がっているようだった。
涼は少し躊躇したが、青い目の青年は慣れているようで、うれうれとカウンターの中へと入っていく。
その様子を見て、涼は自らを警戒しすぎだ、落ち着けと言い聞かせるように、ひとつ息をつくと
カイに続いてタペストリーをくぐる。



「こっちに来るのは久しぶりだなぁ」


と、何か懐かしむように、
周りに見える、あちこちの物を触っては置いていく彼と、
端にある炊事用のスペースに足を向ける老人から察するに、勝手しったる仲のように涼には見えた。

(お孫さん、とか?)

一歩、奥へと足を踏み入れた十畳くらいの部屋はダイニングキッチンだろうか、
古い木造のログハウスといった風合いだが、
軋みが聞こえてくることもなく温かみ溢れ、小さな窓から入る光だけのはずなのに、室内が明るく感じるのは
先ほどまでいたカウンター付近が、暗かったからなのかもしれない。
同じく木製の家具たちの上や、テーブルの上には小物がランダムに散乱しているが
それも不快感を感じない程度、どれもなかなかに使い込まれているように見える。

そして、やはり涼の目を引くのは、自分の元いたところでは決して見られない用途のわかりにくい電化製品。
いや電化製品なのか、それも謎ではあるが、
電子光の文字を浮かべるそれらを、涼は電化製品としか表現しきれない。


「紅茶でいいかな」

「ジーンの場合、紅茶しかねえ。の間違いだろ?」


背後の会話に我に返った涼は、笑い声の方に振り向く。

窓側のテーブルにティーカップが三つ、
そこから湯気が昇っているのを見て、如何に周りのものに気を取られていたのかを理解するのには十分な要素になった。

すでにそのテーブルにつき、腰掛けているカイは不思議そうにこちらを見ている。
まあ大抵、何がそんなに珍しいのか、とでも言いたいのだろう。


テーブルについて、前に出された白いティーカップを手に取る。
途端、鼻を掠める香りはセイロンのそれだが、カップがひどく重く感じるのは気のせいではない。
まるでマグカップのような質量に、涼は不自然に見えないように片手をカップ底に添えた。


「それで、わざわざこっちに呼んだってことは、他のヤツに聞かれるとまずい話でもするのか?」


と、なんでもないことのように言うと、
カイはこの部屋のどこから拝借してきたのか、トランプのようなカードの束をテーブルの隅に置くと、
二枚をバランスよく組み合わせて、属にトランプなどでよく作る、タワーを築き始めた。
涼が彼が突然始め出したそれに、視線を取られていることに気づいたジーンは、

彼のクセだと笑って説明した。
建設作業に何を言うこともなく、ジーンと呼ばれる老人は自身のティーカップに口をつける。


「まあね、お前に彼女を任せたい。」
「ええっ?」

「安心しなさい。彼は優秀だ」

何か不安が這い上がってきた涼が、何か言おうと口を開くと、
にこりという音がしそうなほど、まったくよくできた笑顔で相殺される、が、
つまり、私のこれからのことの世話を、
どこからどうみても自分と大して変わらない年くらいの彼に任せようとしていることがわかる。
この見た目イケメン外国人の学ラン君が、人間を養えるようには見えないが、
実は青年実業家、とか、どこかの金持ちのお坊ちゃん、とかだったりするのだろうか。

言われた彼は一瞬、ぴたりとトランプタワー製作でバランスをとる指を止めたが、また再開する。
少し呆れ混じり、と見える息を吐きながら、会話に混ざってきた。


「ジーン、女の子は、いつもの犬猫みたいに飼い主がすぐ見つかるわけじゃないんだぜ?」

「ああ、だが今、この子に後見が誰一人いないんだ」
「それが表で話せない理由?、…まさか、親がデリートされたとか、か」

「いいや、彼女は時渡りでここに来た。」


半分ほどできていたトランプタワーがぱたぱたと崩れる。
呆気にとられた彼は老人に再確認を求めるように視線を向け、それに老人は白髪頭を動かす。


「マジかよ」



カイは涼の方へと向き直ると上から下まで何かを考えるように
遠慮ない視線を向けてきたので涼はわずかばかり不信感を抱いて口を開く。


「…なに?」

「お前、人間?」
「当たり前でしょ」

「だよなあ、だからか」

何が、だからか、なのか、涼がわからずにいるとそれに紅茶を飲み終えた老人が答える。

「残念なことに、私が信頼を置く人間は、今のところ二人しかいない。人間は元来、一番信用が薄い種だからね」


「なあ、俺と、あとひとりって…」

「…総一郎だが」
「ふざけんな、俺が預かる」


涼の目を見ながら、預かる、と言い切った彼をみて、
たぶん学生だと思われるのに、大人からの信用に答えようとしているところがひどく頼もしい、と感じたが、
なにやらライバルか何かに任せるくらいなら、という意図にとれなくもない会話に、
頭を下げながら作り笑いを貼り付けるしかなかった。


カップの中の紅茶が減っていないのを見て、

「紅茶は嫌いかい?」

と、聞いてきた老人に、そういえば、気を取られすぎて
すっかり紅茶が、手の中で冷めていることに気づいた涼はバツが悪そうに

「いいえ、セイロンは好きです。会話について行くのがやっとで…」

と正直に苦笑いして温いそれを咽喉に通す。
冷めてなお、咽喉から鼻へと抜ける香りのよさに、この紅茶の質の良さを感じてカップを覗き込む。


「…おいしい」


涼の自然な笑みを目にすると、彼はとても満足そうに頷いた。

この老人は頷く動作が、クセなのかもしれないと、
会って間もない老人のこだわりの茜色が波紋を作るのを眺めながら思った。


「呑気だなぁ、俺が総一郎だったらお前、今頃連込み宿でそのままポイ捨てされてるぜ」

呑気だと称されたって、そんなの美味しい紅茶に罪はない。
おいしいものはおいしいのだ。
(連込み宿、ってなに?)

意味はよくわからないが、カイが、その総一郎なる人物が嫌いだということはわかった。
脅かすように私に言うカイ君をジーンさんが笑う。

「そんな人間ではないよ、彼は」

「いいや、そんなヤツだってアイツ」


そんな会話を聞きながら、そう、涼が聞く中で、知らない単語が複数あることに気づく。


「そう言えば、デリートって何ですか」

「そうか、君は知らないことが多いんだったね。」
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