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ep01)Dimensiontours


******


寒い。

涼は、一人街を歩きながら足元から来る悪寒に身震いした。

気温は昨日、美人な女性キャスターが告げた春の気候ではない。
女子高生の誇りである丈を縮めた制服のスカートが、
このときばかりは、伸びてくれたら少しは暖かくなるのだろうかという風に
思考が徐々に生産性のないものへと移行する。

現実逃避の瞬間だ。


腕時計を見たいが、そうすれば曝け出された手首が冷えてしまうと、
そんな少しのことにも戸惑う己は、こんなに寒がりだったのかと再認識して。
早く家に着けばいいのにと願わずにはいられない。

しかし、生憎先ほど学校の校門を出てきたばかりであるので、まだ帰宅までには数十分を要したりする。
この状況下で、通りがかった本屋の自動ドアが偶々開閉して、

その暖風に煽られたなら、
(そこに足を運ばない人はいない、絶対に。)
と半ば強引に自己暗示ともとれるそれを、
心の中で唱えると、涼は自動ドアの中へと入った。


カラカラ、


頭上で鳴ったそれは、よく開閉式扉のこじんまりした喫茶店などにも、
今はもう余り見かけないカウベルで、
明らかに自動ドアが開いたあとの、気持ち程度に柔らかいマットを踏むことで鳴る、

ピンポン、と言う電子音ではなかった。

不思議に思って頭上の音の発生元を探れば、
たしかに赤いリボンの装飾が目に可愛らしいカウベルだった。

ほんの些細な時間しか経っていないながらも、
涼同様に、ここを訪れる者は後ろに控えていて

「おい、そこ立ってられると邪魔なんだけど」


という男性の声に、反射的に飛び退く、

外観からは結構広く感じていた狭い出入り口は、
荷物というか、大量の本を抱えた男性がひとり入ればそれだけで涼の居場所はなく、
視線は男性へと向けながら店の中へと足を進めた。

そのたどたどしい涼の動きを確認すると男は、
若干釣り目がちの赤い瞳を細めて、

「そっちでいいワケね」

と面白いものを見るように笑った。
言葉の意味はわからないけど、
(なんつうイケメンだよお兄さんっ。)

などと言い出しそうになるのをぐっと堪える。
そしてそのまま店へと入っていく彼の背中が小さくなると共に視界が空いて、

その空いた視界に雪崩れ込んでくる物、

本棚に並ぶたくさんの本。

それを立ち止まったまま見回してみて、
なんだやはり自分が足を踏み入れたのは、本屋で間違いはなかったのかと胸を撫で下ろす。

(よかった。変な店とかじゃなくて)

涼が店の出口付近で百面相している間に、
先ほどのイケメンは奥の小さなレジカウンターでささっと会計らしきものを済ませると、
来たときとは対照的に何も持たずに、店の出口、
つまり涼の方へと歩いてくる。


袖の部分と、ジッパーやライン装飾の部分が黒色の、
赤いフードつきパーカーは彼の黒い髪と瞳の色と同じで、統一感を持たせているし、
ブランド物のようにおしゃれな配色のスニーカーが、彼のセンスが悪くないということを現している。

歩き方はどこか気だるそうだが、だらしなく見えないのは髪型も服の皺もいい感じに整えられているから。
これで彼が一人暮らしであったなら、割と生活力もあるイケメンということになる、

なんだか決定的な欠点を見つけられない涼は、

わけもわからずに悔しい気持ちになった。


イケメンはまっすぐこちらに来て店を出て行く、
カウベルがまた独特に低い音立てる。


「時渡りなんて、マジであるんだ」


すれ違いざま言われた意味もやはりわからない。
でも意味深な発言ばかりする男性は気になって、店を出て行く彼の背中を追いかけるようにドアを開けて外へ出る。



「え、」



外に出てみて、
そこで初めて、涼が想像していた街の景色とは
何もかもが違っていることに愕然とした。

本屋を出てすぐに歩道があって、道沿いをアスファルトで舗装された道路が通っていて、
すぐ近くの交差点には信号機が。

そういうのが、日常的に涼が目にする風景であったはずなのに、
歩道じゃないレンガ造りの道は狭くて、
向かいには違う店のようなものがあって、壁は白くて、

まるで写真でみた外国の町並み、
でも外国でもないとわかるのは、その町並みの向こうに見える、近代的と呼ぶには何かが違うような、
金属のようなもので出来ている、鉛色の、ビルとも塔ともつかない建造物。


灰色の道路はどうした。信号機はどうして立ってないの。

というよりむしろ、


「ここ、どこ…」

これが属に言う瞬間移動とか、タイムマシンとか、そういうものでないことはわかる。

「夢、かな」

きっとこれは夢で、どこかで寝こけている私が見ている悪夢だというのなら、

さっさと目覚めろ私。
いや、目覚めてください。

とりあえず頬を抓ってみたり、きつく目を閉じ、もう一度勢いよく開いてみたりして、睡眠打破にかかってみるが、
一向に、一度変わってしまった周りの景色が再び変化を見せることはない。


すると急に夢ではないのかもしれないという言葉が脳裏を掠めて、そして次には焦燥した。

今一度確認してみなくとも明白な事柄だが、
ここは、柳涼という女子高生が知っている土地ではない。
この土地に住まう住民もまた、当然ながら彼女のことは知らない。

この世界では、自らの頼る宛てがまったくないのだ。
先ほど会話した謎のイケメン以外に面識すらない人ばかりの空間に、一気に居心地が悪くなる。
(ついて行っとけばよかった)

彼は、自分のことを何か知っているようだったのに、
右も左も前も後ろも、上下さえわからないこんなところでは、
さきほどの男性を探すだけ無駄である、ということくらいは涼にもわかった。

とりあえず全ての理不尽の始まりと見られる本屋に再度入店する。

あわよくば、責任を押し付けてこれからの生活面諸々を工面してもらおう、
いや、させてやる。
でないと自分は野たれ死に決定だ。

(こんな若いうちに死ぬなんて、)

ドアは、プッシュと英文字表記されている押し戸で、
そんなところすら、自動ドアであったあのドアのある、自分がもと居たところではないのだと納得させる要因となる。

重い気持ちで本屋のカウベルを鳴らして中へ入ると、

古紙の匂いが立ち込めた。


さっきは、本であるから気にも留めなかったが、
よく見ると身長の二倍はあると思われる室内に設置されている本棚には、

新書と思われる本が一冊もない。

埃などはないものの、どれも年期を思わせる程度に、黄色く色づいた物ばかりで、疑問になった、
自分が開けた自動ドアの中は本来本屋であったのかもしれないが、
別のところであるここは、本屋ではないのかもしれない。

そんなことを考えながら涼は、奥のカウンターへと足を進める。
入り口からは気づかなかったが、日光を遮断するように窓のない中は奥へ行けば行くほど暗い。
小さな木目が歴史を思わせるアンティークのようなカウンターに着く頃には、足元に明かりが欲しいと思った。


近づいてきても新聞のような、活字が書かれた広用紙に目を落としたままの長い白髪の老人は
相当な年に見えるのに、眼鏡をしていない、
老眼を使わず、裸眼で見えているのだとしたら、それだけでこの老人は表彰に値する存在だ。
髭はきちんと剃られていて、まるで西洋絵画から抜け出て来たようでもある。
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