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ep04)He is Knight._2

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 口喧嘩が勃発しそうなふたりの間に、普通に割り込む、ワントーン高い声に、
ふたり同時にそちらを向くと、カイは何かを失敗したような苦い顔になり、涼の頬は若干赤らんだ。

「チッ、ここ一番街じゃねえのかよ」

 カイが舌打ちをして、向き直ったそこには、磁器製の西洋人形見まごう出で立ちの、超絶美形が、真っ白い軍服のようなコートを着て立っていた。
 涼の精神は先ほど感じた恐怖による心音ではない、好意によるそれを高鳴らせる己の身体が、如何に正直かを知った。

(ひいいい可愛いいい。直に見るな、絶対にだ。)

眼をどう反らしたものか思案している間に、同じ軍服を着た数名の人間が、場の収拾にかかる。

あっという間に野次馬の残党などの姿は見えなくなった。

 これが、カイが先ほど言っていた銀騎士だろうか。
それにしても、どうやらこの美形さんとも、カイは面識があるようだ。
さらさらとした金髪に綺麗な紅眼の、同年代くらいの人物は騎士というより、王子様のそれに近い雰囲気を醸し出している。

どんな化粧品を使ったら、そんな肌になるのか知りたいくらい白い頬に、かもするとウットリしそうになる自分を叱責した。

 今この場にいるのは、あくまで後学の為だ。余計なことは、言うべきではない。


「ギリギリ二番街、僕の管轄なんだけど」

「…ほらよ」

カイはその軍服さんにカードを一枚投げ、それを受け取ると、彼が左腕にしているゴツめの時計のような腕輪の溝にカードを滑らせた。
すぐに、薄い半透明のディスプレイが現れて、暗号のような文字の羅列がたくさん表示されていく。
どうやらカードキーのように何かを読み込んでいるようだ。


「二番街にてゼロバトル確認。バトル後転送。ヘッダー、カイ・シュバルツ。戸籍確認。日時更新。治安維持行動によりポイント加算対象、換金は…」
「しねえ」
「セーブ完了」

ペラペラと、機械の音声に棒読みされていくそれの、意味も意図も理解できずに、
 ただ後でカイが説明してくれるだろうと、ひたすら口を閉ざして見ていると、
ススキの穂先のような白金色の髪をした彼は、涼にも同じようにカードを差し出せと言っているように、手のひらをこちらに向けてくる。
しかし、その手をどうしていいものかわからずに、涼がその場で固まってしまうと、カイが間に割り込んでくる。

「こいつはただのギャラリーだ。バトルはしてねえ」

「そう、まあ彼らもセーブすればわかるからいいよ」

明らかにわざとカイが会話を中断させたので、
もっと勘繰られたり、疑わしい目で見られるかと思いきや、彼はあっさりと引く。
何か他に方法があるようだ。

「…おい、俺の言葉を信用してねえって言ってるのか?」

「僕は元から誰も信用してない」


彼ら、と指差したのは未だ転がっているカイと対峙した男達で、
あんなにほっといたら普通に死ぬんじゃないかとか、救急車を呼んだほうが、とか涼の知りうる応急手段が頭を擡げてくる。
 だが、そんなことよりも、カイはその軍服の人物の言葉が気に食わなかったようで、ますますしかめっ面になる。
 当の軍服さんは、相当カイの青い眼にガン付けされているが、まるで気にしていないようで、その無表情が崩れることはない。
本当に、お人形さんがしゃべっているように涼には映る。

「…ハッ、そりゃ見上げた役人精神だな。胸糞悪い」

カイが中傷するように嘲笑っても反応はなく、
伏している男たちのほうへ向かおうとするが、
代わりに何かを思い出したように、目線だけカイによこしながら口を開く。

「君が役人嫌いだからって、部下に何回も八つ当たりするのはやめてくれるかい?」


少し呆気にとられたものの、
カイは言われた言葉に身に覚えがあったようで、
すぐに訝しげな視線を白と黒の軍服に向けた。

「じゃあ俺の周りを嗅ぎ回るなって、ちゃんと躾けとけ」

「君の?……そう」

器用に投げて返されたカードを仕舞いながらカイが答えると、
少しだけ考え込むように間を空けて、自らの白い軍服から倒れている人数分だけカードを取り出して、ひとつずつ配分するように投げつけていく、
カイにしても、あの軍服さんにしても、よく、あんなに上手くカードを扱えるなあ、などと感心していると、

 なんと倒れていた男達はいとも簡単に目を覚ました。
どうなっているんだろう、と、よくよく彼らを見てみるがどこにも傷はなく、あれだけ派手に流れていたはずの赤い血は、見たのが幻であったかのように綺麗になっている。
 きっと先ほど軍服の彼が投げつけたカードによるものなんだろうと察し、その様子をまじまじと見る。まるでマジックだ。
男達はカイの姿を眼に入れると苦い顔をしたが、軍服の人間を確認するとへこへこと頭を下げた。
他の軍服の人達を見回せば、あの美形と同じく男達のカードを機械にスラッシュさせて、謎の通例行事を行っている。
どうやらゼロバトルというものをした全員がこの行事を通過しなければならないようだ。


「フッターのセーブ完了しました。」


と、機械の少しだけ高い音声が告げると、軍服さんの紅い眼と視線がぶつかった。
涼は咄嗟に身構えたが、彼女の警戒心とは反対に割とあっさり視線を外される。どうやら身の潔白は証明されたらしい。


「…君、彼に見覚えは?」

すぐに眼を細めて、少し間を置いたあと、美形さんは報告に来た白軍服の男のひとりに、カイを指差して尋ねる。

「彼ですか?いいえ」

「…そう、次どこ?」


そのまま足を止めることなく、数人を引き連れて去っていく彼を見て、カイは大きく息を吐いた。

「やっぱアイツ、俺の言うこと信用してねえな」

肩を落として息をついた彼に涼はようやく疑問が確認できた。

「あの人達が銀騎士っていう人達?」
「ああ。各番街で管轄隊が違うけど、それぞれの地区内の治安維持組織をまとめて銀騎士って言ってる。
騎士は全員白の、あの制服だからすぐわかる。アイツは二番街担当隊長、ユニって皆は呼んでる。」

「呼んでる?」

つまり、警察のような人達なのに、
名前みたいな重要な情報は、確実ではないのか、と暗に聞き返すと、
頭を掻きながら、なんて説明しようか迷っているのだと、カイの表情で察する。


 ということは、誰もあの隊長さんの本名を知らないということだろうか。
 そしてその涼の予想はあながち外れてはいなかったのだ。

「あいつが誰かに名乗ったとこなんて、見たことねえよ」

「…聞かないの?」


「聞いたぜ勿論…『好きに呼べば?』、だとよ」

気に食わないように言い始めたくせに、笑い声に混ぜてユニという青年の声真似をするように言った彼は、
あの無表情な青年隊長とよく会うらしく、言葉では馬鹿にしたように言いながらも、なんだか楽しそうに見えた。
それって一種の友人のようなものなんじゃないだろうか。それにしても、

(コミュニケーション能力がなくても、銀騎士って隊長になれるのかあ、)
と、異世界探検に多少疲れてきた涼の思考は明後日の方向に飛んだ。



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